幸福のための経済

11月17日東京で行われた2つのシンポジウムに参加した。


ひとつめは、仏教徒が主催する「共生(ともいき)シンポジウム」、
ふたつめは、「幸福のための経済」というシンポジウムだ。


ふたつとも、ローカリゼーションの世界的なオピニオンリーダーである
ヘレナ・ノーバーグ・ホッジさんが出ているので参加することに決めた。


会場は同じ東京大学の武田ホールという新しいモダンな建物だ。
鴨川の山の中からめったに都会に出て行かないボクは、
初めて訪れる東京大学のキャンパスをオノボリさんのような気分で眺めて歩いた。


ココが60年代トキコさんや藤本さんや若者達があばれていたトコロかあと、
ボクはまるで映画のセットの中を歩いているようなフシギな感じだった。


会場では、ミュージシャンのOTOさんや、
エコビレッジを研究している立教大学准教授の佐野さん、
スロービジネススクールの仲間たちと葉山でエコビレッジづくりの準備をしている大宮さん等、
数人の知り合いにお会いした。


そしてなんと6年ぶりにタケ君に再会したのだ。
彼は、ボクが平和活動家のきくちゆみさんと「バタフライ」という絵本を出版し、
東京のビーグッドカフェでイベントをした時出会った若者だ。
当時法政大学の4年生だった彼は、卒業旅行に鴨川のボクの暮らす古民家へ
ぜひ宿泊させてほしいと言ってきたのだ。


その頃は次女の萌音(もね)が生まれたばかりで、古民家も改築中であり(今もそうだが)、
とてもたくさんのお客さんを受けいれる状態ではなかったが、彼の熱意に押され卒業旅行を引き受けた。


そして男女7〜8名の若者が我が家へやって来た。


ドブ掘り、薪割り、シイタケの原木置き場作り、森での瞑想、玄米菜食、
手動コンポストトイレ(ただオマルを二つ用意しただけだが)、薪ストーブと、
都会っ子の彼らは僕たち家族の鴨川ライフを体験した。共に働き、共に遊び、
そしてたくさんのコトを語り合った。日本のコト、世界のコト、環境、平和、戦争、
教育、経済、仕事、人生、出産、旅、アート、スピリチュアリティ、これからの地球について…。
彼らと語り合い、ボクは今どきこんなにまっすぐでジュンスイな若者たちがいるんだ!とおどろいた。
それは、昨日のコトのように憶えている。


タケ君はその後中学校の教師となり4年後、イギリスの大学院へ留学し、
そして帰国したばかりだという。
タケ君は「あれから、たくさんの挫折を味わいました。」とほほえみ、
「また教師をやります。」とまっすぐな目で話してくれた。
その目の輝きは6年前とちっとも変わらず澄んでいた。
 

会場には、様々な分野の人が来ていた。アーティスト、教育者、建築家、僧、TVディレクター、
学生、主婦、ジャーナリスト、NPONGO関係者…。
みんないきついたトコロにローカルコミュニティという共通のキーワードがあるのだろう。


現代の様々な問題は複雑に絡み合い何が原因かと一言では言い表せないが、
根本的にはグローバリゼーションによる地域コミュニティーの崩壊が
ひとつの大きな要因になっているのは確かだ。


そのしわ寄せが、子供や老人や自然環境へといっているのだ。


日本の年間自殺者は米国の2倍、英国の3倍、イラク戦争で亡くなった米兵の10倍で、
GNPは世界第2位なのに年間3万人以上が自殺している異常な国なのである。
3万人といったら鴨川市の人口くらいじゃないか!

そして児童虐待はうなぎ上りで、全国の児童養護施設はパンク状態である。
親が我が子を虐待し、子が我が親を殺す国…。


この社会のゆがみは日本のみならず、今や世界に広がっている。


アジア、アフリカ、南米の持続可能で自給自足的な村落共同体は自由貿易
開発と援助と言うグローバル経済のパワーに飲み込まれ、急速に破壊されている。



「先進国」は、「途上国」を「豊かな社会」へするため、グローバル経済を押し付け、
村の子供達に、都市生活がいかに豊かで進歩的であるかを教育し、
子供達は両親の仕事である農業を恥ずかしく思うようになり、
テレビに映る西洋的物質文明にあこがれる。
そして、ファーストフードをパクつき、コーラを飲み、
民族衣装を脱ぎ捨てジーンズをはくようになった子供達は、
持続不可能で誰も幸福にならない巨大な破壊システムに絡め取られていく。


「幸福のための経済」というドキュメントムービーは、そのからくりを、
世界中の証言から見事に暴いてくれる。 
そしてこのままでは、人も地球もダメになってしまうと警告する。


では、どうしたらよいか?その答えがローカリゼーションであると最後にしめくくる。
エコビレッジトランジションタウン、ローカルコミュニティ再生、
地域で自給自立していくことだと。
食糧、エネルギー、経済、医療、教育等を出来るトコロから始めていこうと。


まず人間の生存に一番基本的な食からが始めやすく、食の自給、
自立を目指した活動は小さいけれど世界中で始まっているそうだ。
地産地消を進める直売所やファーマーズマーケットスローフード運動や伝統食の見直しなど。


これは、ここ房総でも館山のロックシティで毎回開かれる
「あわあわファーマーズマーケット」、鴨川の「みんなみの里」や
「あわのわ コミュニティカフェ&マーケット」、
夷隅の「ナチュラルライフマーケット」等がすでに始まっている。

今、房総半島に次々と移住して来る半農半Xな人たちは新しい社会へ向って
ゆっくりとだが確実に動き始めている。
 
ヘレナさんは最後にこんなことを言っていた。
「みんなが共有できるビックピクチャー(未来ビジョン)をつくりましょう。」
自分の暮らすその地域で、そのコミュニティで。


そしてその活動が生きていることの祝福であり、喜びであり楽しいコトであるならば、
社会は必ず変わっていくだろうと。


シンポジウムが終わり、帰りの高速バスの車窓から見える風景は、
夜のきらびやかな東京からアクアラインを渡ると一変し、
縄文の森が残り夜の闇がつつむ房総半島へと変わっていった。
僕は外の風景をぼんやりと眺めながら、南房総で、
鴨川でどんなビックピクチャーを描けるだろうかと思いをめぐらせていた。